「可愛い。うん、すごく可愛いよね♪」
その一言が全ての始まりだった。
タマちゃんパニック
天瀬美恵が夢中になっているモノそれは……アザラシのタマちゃん
ブームも過ぎたというのに今だに『可愛い』の連呼である。元々、彼女は動物好きで、それ自体は何の害もない。
そう……問題は周囲の野郎どもにあった。
次の日、日直のため朝早くに登校し、黒板を掃除していた美恵
突然、何かが乗りかかってきた!!
「キャーーー!!!」
「おはよう美恵♪あいかわらず綺麗だな。愛してるぜベイベ」
でた!!B組、いや城岩中学プレーボーイ代表・三村信史!!
「コラっーー!!抜け駆けするな三村!!」
「美恵さんから離れろ!!」
と、マドンナ・美恵から三村を強引に引き離しにかかる川田と七原
「大丈夫か天瀬」
「本当に油断も隙もないわね」
いつからいたんだ?杉村、貴子。
「全くだぜ。天瀬、オレが守ってやる。オレまえから、おまえの事いいなと思っていたんだよ」
「あんたの方が三村より一億倍危険なのよ!!!ふざけるなっ!!この、クサレ男っ!!!!!」
「ギャーー!!!!!た、たすけ……!!」
「助けるわけないでしょう!!」
「お、おちつけ貴子!!おちつくんだ!!」
自称・天瀬の恋人こと、新井田。鉄の女・貴子に殺されかけ、あえなく退場。
「おはよう、みんな」
ニコッ。天使の微笑み。その場にいた全員が死んだ新井田(本人曰く『死んでねー!!』)のことを忘れ、なごやかな雰囲気に包まれた。
「でも、みんな、どうしてこんなに早いの?」
「あっ…と、忘れてたよ。美恵さんに渡そうと思って」
七原が取り出したのは…
「わぁー、タマちゃんの生写真、すごく嬉しい!ありがとう七原君!」
「よかった。喜んでもらえて嬉しいよ。ノブに徹夜で張り込みさせた甲斐があったよ」
「えっ…?ノブさん?」
「あ、何でもないんだ。気にしないでくれ」
「ちょっと見せろよ、美恵」
ふいに三村が写真を取り上げた。
「なんだよ。ぶれてるじゃないか。おまけにアングル悪いし、まるっきり素人の仕事だな。美恵、ほら、これやるよ」
三村が取り出した写真。それは……
「わぁー、すごい。タマちゃんの水面顔出しアップ!!いいの?」
「美恵のために必至に撮ったんだぜ」
「嬉しい!三村君ありがとう!!」
三村に抱きつ美恵。
悔しがる七原。
チクショー…三村にリードされたのは全部ノブの責任だ。覚えてろ!!!
(本当はタマちゃんのHPから無断でコピーした写真なんだよな。悪いな七原。要は頭の使い方次第なんだぜ。
これで美恵のハートはオレのもの)
「天瀬、今日の昼飯一緒に食べよ思ってな。弁当作ってきたんだ。まあ、みてくれ」
川田が取り出した弁当箱。フタをあけると……
「わぁー、可愛い!!」
タマちゃんウインナー、タマちゃんハンバーグ、タマちゃん卵焼き、おまけに御飯にまで、そぼろでタマちゃんの模様が描かれている。
「川田君、すごーい。食べるのもったいないよ。尊敬しちゃう」
「なんなら一生、天瀬のために作ってやってもいいぞ」
「「何だとぉ!!!!!!!!!!」」
白熱する三村VS七原VS川田
「ちょっと弘樹!!あんた、いつまで黙ってるのよ!!早く渡しなさいよ!!」
「ああ、わかってる。でも、いざとなると……恥ずかしくて」
「あんたねぇ、ただでさえ出遅れてるのよ!!あいつらが争ってる今がチャンスなのよ、わかってるの!?」
「わかった…オレも男だ。天瀬!!これ、もらってくれ!!」
かわいらしいラッピングに包まれたプレゼント。貴子のアドバイスに従い昨日商店街を走りまわって手に入れたブツだ。
「アザラシのヌイグルミなんだ。気に入ってくれれば嬉しいんだが」
「えっ?アザラシの?ありがとう杉村君、あけていい?」
「ああ」
大喜びでリボンをとく美恵。その様子を見詰めながら貴子は思った。
(私のアイデアと弘樹の出資。私たちの勝利ね)
……が
「杉村君……これ、トドだよ」
「そのほうが逞しくて、いいと思ったんだが……」
「このばかっ!!!!!」
と、その時
「てめえら!!天瀬に手出しするんじゃねえよ!!!」
「おっはよー美恵ちゃん♪それに…み・む・ら・くーーーん♪」
「「「「「なんで、おまえたちがこんなに早いんだよ(のよ)!!!!!」」」」」
「うっせえ!!オレが朝っぱらから学校にいちゃ悪いって言うのかよ!!」
「まあ、確かに、あなたたちが不思議に思うのも無理ないわよね。これは桐山くんの命令なのよ」
「「「「「桐山の?!!」」」」」
「ボスが言ったんだよ『オレが行くまで美恵を死守しろ』てな」
桐山……泣く子も黙る、B組最強の男。そして彼も美恵を熱愛していた。『オレが行くまで』……その不可解な言葉に全員が首をかしげていた、まさにその時!!
バルルルルゥゥゥ……突然、頭上から響き渡ってきた謎の金属音。そして……
『美恵』
桐山の声がスピーカーを通し、学校中に響き渡った。
「桐山君?」
美恵は咄嗟に窓に駆け寄った。そしてみた。はるか上空に巨大ヘリコプター。
いや、問題は、そのヘリに超特大水槽がぶら下がっている事だ。
あっけにとられてヘリを見上げる美恵プラス7人。と、ヘリのドアが開いた。
「桐山君!!」
「美恵、プレゼントだ。おい、降ろせ」
「了解しました」
パイロットが何やら怪しいバーを引くとヘリと水槽がつながっていたワイヤーが瞬時に解かれた。
「あっ、水槽が!!」
「落ちて来るぞ!!」
「キャーーー!!三村くん!!」
ザッパーーーンッ!!人口津波直撃、逃げ惑う人々(8人だけだけど)
水が引いた後に残ったのは、水浸しの教室…倒れた机や椅子…割れた窓ガラスや備品……そして
アゥアゥァウァウァウ……
ボーゼンと立ちつくす8人。ヘリから飛び降りる桐山(屈伸5回転3回ひねり)
「あ、あの…桐山くん…これ……」
「美恵が好きだといったから昨日北極から取り寄せた。気に入ってくれたかな?」
「あ…ありがとう……桐山くん……」
貴子「何なのよ……このアザラシ……」
杉村「10匹はいるんじゃないか……」
七原「……金持ちがやることって理解できないな」
三村「……て、いうかオレは桐山が理解できないぜ」
沼井「正直言って……ボスって何者?」
月岡「やることがハデよネェ……」
川田「……しかも、このアザラシ、保護動物じゃないのか……?」
こいつには絶対かなわん……そう悟った7人だった。
メデタシメデタシ
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