春の陽だまり、舞い散る桜

卒業証書を胸に巣立ってから何年の月日が流れただろう

そして今日――



同窓会


「お久しぶり!」
「元気だった?」
「お互いふけたよな」
「バカッ!そんな年齢かよ」

会場に集まった41人の仲間たち

誰もが、あの頃より、少しずつ大人になった顔がそこにはあった。

「全員集まった?」
「後、二人来てないわよ」
美恵たちでしょ。まあ、仕方ないわね」

委員長こと内海(旧姓)幸枝は溜息をついた。

「あの二人、外国暮らしだったんだもの。今日の為に、帰国してくれるだから少しくらい待たないとね」

幹事でもある幸枝は、あらためて級友たちを見渡した。

「じゃあ、美恵たちを待ってる間に近況報告ね」

10年という歳月。幸枝はまるで変わってないテキパキと場を取り仕切っている。



「相変わらずシャキシャキしてるよな委員長は。なあ七原」
「なんだよ三村。何が言いたいんだよ」
「おまえ絶対、尻に引かれてるだろ?」
「うるさいっ!!」
「そうだぞ三村!!独身のおまえに世帯者の苦労がわかってたまるかっ!!!」
「……杉村。おまえが言うと、めちゃくちゃ説得力あるよな」
「三村……それって、どういう意味かしら?」
「……げっ!!いたのか千草!!……じゃなくて貴子さん」

10年という歳月。クラスメイトの中には、かつての級友から家族になったものもいた。




「はい充」
「サンキュー泉」
カクテルを差し出す新妻。そして、すっかり真面目な男に成長した、かつてのツッパリ。


「いいよな沼井は……泉さん、ひかえめで優しくて、夫をたてるタイプだもんなぁ」
「いうな七原。選んだのはオレたちだ」


「ねえ、さくら。ぼうやは元気?」
「ええ。最近は歩けるようになって目が離せないのよ」
委員長グループに囲まれ、子供の話題に華を咲かせる小川(旧姓)さくら。
その姿を遠くから眺める山本和彦。そばには心優しい滝口や瀬戸が複雑な表情で寄り添っていた。


「……山本君は新しい彼女できたの?」
「……君はハンサムだし、人生これからだよ」
「ありがとう。大丈夫だよ。気にしてないから」


中学時代、クラス一仲の良かったカップルも、かたや会社の上司に見初められ専業主婦。
かたや寂しい独身者。
人生なんてわからないものである。


「うん、彼と将来は茶道教室開こうと思ってるの」
「じゃあ、例の師範代とゴールインなの?よかったね」
「違うのよ。師範は結局、家元のお嬢さんと結婚して、今の彼とは京都のお茶会で知り合ったの」
ちょっと、計算違いはあるものの、自分の人生計画表に沿った生き方をしている者あり


(ふん、相変わらず下品な奴僕どもめ)

「そう言えば、織田も結婚したんだって?」
「取引相手の娘と政略結婚なんだってさ」
「美人か?」
「それが、おせじにも……。しかも6歳も年上のうるさい女らしいぜ。可哀相になぁ」

(なぜ、このオレが、こんな庶民どもに同情されなきゃならないんだ!!くそっ!!)

上品な美人と適当に結婚……人生はうまくいかないものである。




みんな大人になった

みんな、それぞれの人生を送っている




赤松義生……中学卒業後、町の工場に就職。現在独身、恋人なし。

飯島敬太……高校卒業後、平凡なセールスマン。

大木立道……男子高卒業後、地元の企業に就職。

織田敏憲……音大卒業後、親の後見で音楽家に。親の決めた妻に不満だらけ。

川田章吾……苦学し医大卒業後、父の友人の紹介で小さな病院に就職。面倒見がよく地元の子供に大人気とか。

国信慶時……専門学校卒業後、慈恵館の保父見習に。現在、典子ではない女性に片思い。

倉元洋二……好美とは中学卒業時に別れた。その後も他の女と付き合うも長続きせず、現在彼女いない歴4年

黒長博……高校中退後、父親の土建屋に就職。

笹川竜平……高校卒業と同時に結婚するも半年で離婚。その後、再婚して再び離婚。1児の父。

杉村弘樹……体育大卒業後数年を経て今年念願の拳法道場を開く。子供たちに人望厚いが、妻には頭が上がらない。

瀬戸豊……ローカル局で、そこそこ人気のあるお笑いとして活躍するも結局引退。現在は平凡なサラリーマン。

滝口優一郎……専門学校卒業後、売れないアニメーターに。稼ぎのいい妻に養ってもらっている。

月岡彰……高校卒業と同時にお水の世界に。商才を大いに発揮。現在、支店を5もかかえている。

七原秋也……高校卒業後、サラリーマンに。ボランティアで地元の少年野球団のコーチをしている。2年前、結婚。しっかり者の妻に全てを仕切られている。

新井田和志……高校、大学とそこそこの成績で卒業。一流企業に就職、部長の娘と婚約。そのため現在の恋人と離別交渉中。

沼井充……高校卒業後、金井泉との再会をきっかけに真面目な人生を歩んでいる。現在、義父の後を継ぐべく猛勉強中。

旗上忠勝……男子高卒業後、地元の企業に就職。この春、お見合いしたらしい。

三村信史……大学卒業後、フリーの売れっ子プログラマーに。相変わらずモテモテだが、中学時代に好きだった女性が忘れられず特定の彼女はいない。もちろん独身。

元渕恭一……大学卒業後、県政府の公務員に。その後、上司の娘と見合い結婚。無難な人生を歩んでいる。

山本和彦……社会に出ると同時に小川さくらにふられ、その後も女運に恵まれず現在彼女なし。母親に見合いを進められている。




稲田瑞穂……女子高卒業後、OLをしながら占いのバイトもこなしている。彼氏無し。

内海幸枝……大学卒業後、一流企業に就職するも2年前に寿退社。現在はバイトで塾の講師をしている。

江藤恵……短大卒業後、父親の強い希望で就職せず。結局、家事手伝いに。

小川さくら……短学卒業後、就職先の上司と結婚。寿退社して、悠悠自適の主婦生活を送っている1児の母。

金井泉……女子大在学中から沼井と交際。半年前に結婚。現在専業主婦。

北野雪子……料理関係の専門学校卒業。在学中に知り合った男性と交際中。

日下由美子……高校卒業後、OLをしながらボランティアで地元のソフトボールクラブのコーチをしている。

琴弾加代子……短大卒業後も茶道を続ける。三ヶ月前に師範免許取得。現在婚約中。

榊祐子……高校卒業後、町役場に就職。相変わらず男性恐怖症のためか彼氏なし。

清水比呂乃……高校中退後、お水の世界へ。複数の男性と交際するも、すぐに破局。未婚にして2児の母。

相馬光子……高校卒業後、一流クラブのホステスに。その後、結婚と同時に退職するも、夫のかせぎが悪いので、小料理屋の女将に。その美貌と社交性で大いに稼いでいる。

谷沢はるか……高校時代から付き合っていた相手と1年前にゴールイン。現在、妊娠三ヶ月。

千草貴子……大学卒業後、一流企業に就職するも1年前に寿退社。現在、拳法道場の経営者。

天童真弓……OL時代に交際していたた相手と結婚寸前で過去の事がバレ婚約破棄。現在はバーのホステス。

中川典子……短大卒業後、地元の企業に就職。上司の息子との縁談が上手くいきそうらしい。

中川有香……専門学校卒業後、保母に。そのお笑いの才能を園児相手に発揮している。

野田聡美……大学院在学中。助教授になるため猛勉強。もちろん恋愛する暇など無い。

藤吉文世……看護学校卒業後、念願の看護婦に。就職先の病院で知り合った医師と二ヶ月前に結婚。

松井知里……OL時代に知り合った男性と大恋愛の末、結婚。ちなみに三村信史とは正反対のタイプらしい。

南佳織……アイドルの追っかけに夢中になりすぎて短大を中退。親のコネで、地元の企業に就職。

矢作好美……高校中退。その頃出合った男性と出来ちゃった結婚。自営業の夫と共働き。平凡な幸せを手に入れている。



林田先生……相変わらず城岩中学校で生涯一教師。学年主任に昇進。妻と三人の娘がいる。









幸枝「こうして見ると一番幸せなのは、やっぱり美恵よね」
貴子「同感ね。あの頃は、どうして美恵みたいなイイ子が、あんな奴と、と思ったけど、あいつが出世頭だもの」
光子「冷静に考えれば、彼がクラス一のいい男だってのはわかったけど、当時は近づき難い雰囲気があったものね」


幸枝「そうそう、何だかんだ言っても勉強もスポーツも一番だったし。秋也なんて、正義感が強いと言えば聞こえはいいけど、私がいなかったら、とっくに会社クビの世間知らずだもの」
七原「……うっ…反論できない」

貴子「うちの弘樹だって、道場経営のケの字も知らない拳法バカのお人よしよ。私がいなかったら、三日で潰れるのがオチね」
杉村「……た、貴子……」

光子「それでも、稼ぎがあるだけマシじゃない。ねぇ優ちゃん」
滝口「……ご、ごめんよ。光子さん……」

クラス中の男の同情の視線が集まる。

――その時。

「三人とも、素直じゃないわね。本当は愛しているくせに」
「「「美恵!?」」」

綺麗にアップした髪。上品なドレス。それらを彩る、控え目だが素晴らしいティファニーのアクセサリー。

「では若奥様。後でお迎えに上がります」
上品な老紳士が美恵に一礼して会場を後にした。

数年振りの旧友は、まるでハリウッド女優のさながらに美しくなっていた。その輝きに、かつてのクラスメイトたちは全員、息を呑む。

「どうしたの?」
「ううん…びっくりしただけ。美恵本当に綺麗になったわね。それに、すごく幸せそう」
「幸枝だってそうでしょ?七原君、セクハラされてる女子社員たちを庇って上司にたてついて大変だったけど、そんな彼を誇りに思ってるって電話口でのろけたのは、どこの誰かしら?」

「幸枝……」←かなり嬉しそう
「だって……それが秋也の長所だもの」

「貴子だってそうよ。私の夫は誰よりも芯が強くて、人望もあついし、将来は間違いなく大物よって、自慢してたのは何処の誰かしら?」

「貴子……」←半信半疑
「な、なによ!ちょっと褒めただけよ!」

「光子も言ってたじゃない。私の主人は世界一優しい…って」

「光子さん……」←感涙
「仕方ないわよ。唯一の取り得だもの」

女同士の会話に華が咲く……その時!!




美恵ーー!!会いたかったぜ!!!」
「キャーーー!!」
突然、背後に体重を感じ、悲鳴を上げる美恵
「相変わらず可愛いよなぁ」
「み、三村君!」
「……オレ、今でも美恵に夢中なんだぜ……」
「……私、一応人妻だけど……」
「あんな無愛想男に美恵は勿体無さ過ぎる!今からでも遅くはない。あんな奴と別れてオレと……」


ガッシャーーーンッ!!!


三村の後頭部に激しい衝撃!!それも、そのはず。ワイン(中身入り)……しかも最高級のロマネコンティが激突したのだから。


「だ、誰だ!!!」


振り返る三村。そこには……


「ひとの妻に手をだすとは、いい度胸だな」
「和雄!!」
そこには無く子も黙る桐山和雄が!!そう美恵の夫である。
血まみれ三村を無視して、最愛の夫に抱きつく美恵
「どうしたの?会議に出てから来るって言ったのに」
「ああ……嫌な予感がしたからキャンセルして駆けつけたんだ。的中だった」
学生時代と違い、ハリウッド俳優のように前髪をおろしている桐山。
どうやら美恵の好みの髪型らしい。


「ボス!!会いたかったです!!」
「元気でしたか?」
「決ってますよ。アルマーニ」
「もうっ、桐山くんったら、相変わらず、乱暴ね」




幸枝がグラスをあげた。
「全員揃ったわね。さあ、始めましょう」
ワアァーと歓声が上がった。そこには10年前の彼らがいた。
そう…少しづつ歳を重ねた彼らが……そして




「……うっ」
美恵…!大丈夫か?」
「うん…大丈夫よ。心配しないで」
「だから家で、大人しくしてろといったんだ」
「だって……皆に会いたかったもの」

必要以上に美恵を気遣う桐山
そんな二人をクラス中がキョトンとした表情で見詰めた。







「……あっ!美恵もしかして!?」
嬉しそうに頷く美恵。
今だに理由がわからず、相変わらずキョトンとしている男子。
すぐに察し、次々に「おめでとう」と声をかけてくれる女子。
変わってないと思っていても、やはり確実に変わっていた。









みんな大人になった

みんな、それぞれの人生を送っている



桐山和雄……一流大学にトップ合格。自主退学した後、渡米。ハーバード大学入学、経済学を学び、3つの博士号を取得。卒業と同時に桐山コンチェルン・ニューヨーク支社に入社。数々のプロジェクトを成功させ、その業績を手土産に本社・取締役として帰国。

天瀬美恵……名門女子大入学。中学時代からの恋人・桐山の強い希望で、卒業と同時に渡米。桐山の卒業を待って、めでたく未来の桐山財閥総帥夫人となる。そして……半年後には……新しい家族が増える予定。









「オ…オレは無視かよ……」←三村









END