きぃ~よ~し、こ~のよ~る~♪
慈恵館に愛らしい子供達の歌声が響く。
そう、今日はクリスマスイブ。
カトリック系の慈恵館にとっては年一番のイベントなのだ。
「シューヤ兄ちゃん、これつけて」
「ノブにいちゃん、僕のも」
子供達の中で最年長の七原と国信は幼い『弟』や『妹』達が差し出すツリーの飾りを次々につけていた。
「楽しみだねクリスマス」
「うん良子先生のケーキ美味しいもんね」
その姿に七原と国信の笑顔は自然とほころんだ。
「よーし出来た。今夜にはサンタさん来るからな」
「わーい」
喜ぶ子供達に七原は『幸せってこういうことをいうんだろうな』と目を細めた。
だが、子供達を再度見渡して七原は一人いないことに気付いた。
美恵ちゃんは?」




メリー・クリスマス♪




「よお七原、国信。朝から何しけた顔してんだよ。
今日はクリスマスイブだぜ。おまえたちも恋人見つけて熱い夜でも過ごせよ」
「……いいよな三村には悩みが無くて」
「……そうそう……聖なる夜を性なる夜と思っているくらいだもんな」
「おい、どうしたんだよ。悩みがあるなら言えよ」
「そうだぞ水臭いぞ。貴子の意向に逆らわないことなら協力してやるぞ」
「三村、杉村……おまえたち本当にいい奴だよな。
でも……こればっかりは……」
「……うん、こればっかりは……」
「いいから言えよ」
「慈恵館に今年来たばかりの美恵ちゃんって12歳の女の子がいるんだ。
なかなか皆に打ち解けてくれなくて……まあ事故で両親を目の前で死なれたんだから無理ないけど。
その子、元々身体も丈夫じゃなくて、今日も風邪ひいて寝てるんだよ」
七原は今朝の出来事を詳しく話した。
























美恵ちゃん」
「……おにいちゃん」
「まだ具合悪いのか?」
「……ううん、熱下がったし……もう大丈夫」
「だったらクリスマスパーティーの会場にいかないか?
別に手伝わなくてもいいんだよ。皆と一緒の方がいいだろ?」
「……いかない。クリスマス嫌いだもの」
「え?何で?」
「だって……サンタさんは欲しいものくれるっていうけど。
パパやママをくれないもの」
七原は言葉に詰まった。
「第一、本当はサンタさんなんていないんでしょ?」
「そ、そんなことないよ」
「おにいちゃんの嘘つき!!私知ってるんだから。
本当はパパがこっそりプレゼント置いてたの。
だから、もう私のところにはサンタは来ないんだよ。
それに……私、もうすぐ死んじゃうし……」
「な、何言ってんだよ!!」
「だって……私、体弱いし……」
「バ、バカだなぁ……お兄ちゃんだって子供の頃は風邪なんてよくひいてたんだぞ」
「……明日、雪ふる?」
「雪?」
「うん……パパやママと毎年見てたの。もう一度みたいな……」
「み、見れるよ。今年も来年も」
「見れるわけないよ。私のところには、もうサンタさん来てくれないんだから……」
























「……と、いうわけなんだ」
「そうか……そいつは大変だな。ん?杉村何涙ぐんでるんだ?」
「……いや、オレは毎年貴子や彩子と家族ぐるみで楽しいクリスマスしてたから……。
世の中には、そんな可哀想な子がいたなんて……。
何も知らずに楽しんでいたオレは……自分が情けなくて……」
「……ちなみにおまえ千草姉妹にプレゼントやってた口だろ?」
「三村……おまえエスパー?」
「でも子供なんて単純なもんなんだ。おまえたちがサンタのフリしてやれば立ち直るんじゃないのか?」
「オレたちもそれは考えた……でも、オレもノブも顔をしられているからな。
騙すなんて無理だよ……だから三村……」
「な、何だよ、その意味ありげな目は?」
「おまえなら、あの子に面割れてないし、おまえがサンタのフリしてくれないか?」
「お、おい冗談は寄せよ。オレはサンタってガラじゃないだろ?」
「何だよケチだな。不特定多数の女には愛のサンタやってるくせに」
「……七原、おまえ顔に似合わず言うこときついぜ」
「とにかく誰でもいいからサンタやってくれよ。あの子を助けると思って」
「……そうだ豊。あいつは子供によく懐かれるし、あいつなら……」
























「うわぁぁぁ~~んシンジィーー!!!オレ出来ないよぉぉーー!!!!!」
「バカ、泣き言いうなっ!!おまえコメディアン志望なんだろっ?!!
プロになったら、もっとキツイことさせられるだぞっ!!!」
説明しよう。豊は今サンタのコスプレをしている。
そして……なぜか銭湯の煙突に昇らされ、恐怖で動けなくなっているんだ。
「完璧なサンタを演じきるためだ。サンタは常に煙突から不法侵入する変質者!!
このくらいの煙突を昇りきる体力が必要なんだよっ!!!
これはサンタとしての訓練なんだ。乗り越えろ豊っ!!!!!」
「み、三村っ!!!もういいよ、豊にサンタは無理だっ!!!」
「何だよ七原。せっかくオレが豊の訓練に協力してやっているのに」
「とにかくあれじゃあ豊が可哀想だ。もっと適任者探すから……」
「適任者って言っても……そうだ!!確か相馬は毎年サンタやってるって言ってたぞ!!」
「えええぇぇ!!!!!相馬がぁぁぁ!!!!!」
信じられないっ!!!だが、それが事実ならやはり経験者に頼むのが一番だっ!!!
七原と三村は早速光子の元に急いだ。
煙突のてっぺんで泣きわめいている豊をおいて……。
























「サンタ?ええ毎年やってるわ」
光子は愛らしい妖艶な笑顔でそう答えた。
「よかった……実はかくかくしかじかなんだ。人助けと思って。な?」
「いいけど……あたし高いわよ」
「「高い?」」
「そう、毎年クリスマスパーティーでは一番の売れっ子だもの。
今年だって……ほらこんなにパーティーに参加してくれって依頼が来てるのよ」
「高いって、どのくらいなんだよ?」
「そうねぇ……相場は一時間10万円ね」
「「じゅ、じゅうまんえん~~んっっ!!!!!」
どうしようオレにはそんな金はない!!!
だけど、それで美恵ちゃんが元気になってくれるのなら……。
「わかった……バイトして貯めるよ。だから……」
「あら七原くんって律儀なのね。いいわよ」
「ちょっと待て七原」
「何だよ三村」
「契約する前に確かめておきたい……相馬、おまえのサンタを実演で見せてくれないか?」
「あら、いいわよ」




「……三村の嘘つき」
「いや……オレも知らなかったんだ。こんなサンタなんて」
「ほらほら二人とも。早く飲んで、それとも食べる?アーンして」
女馴れしている三村はともかく七原は真っ赤になって俯いていた。
そんな二人にビキニタイプのサンタのコスプレして酒をついでやっている光子(汗)
そう!!光子のサンタとはいかがわしいクリスマスパーティーでのコンパニオンだったのだ!!
七原は思った。
ダメだ!!こんなエロチックなサンタじゃ元気になるどころか人間不信になってしまう!!
そんな三人の様子を教室の窓の外から見ていた人物がいた……。
「……いいなぁ…オレもあんなサンタに来て欲しいぜ」
それは貴子曰く史上最悪のクソ男・人呼んで新井田和志!!!
「一度でいいから相馬のサンタと……いや千草でもいい……。
千草がビキニのサンタやってくれたら……へへぇ……最高」
新井田は妄想にふけっていた。




その時っ!!グワシッ!!背後から髪の毛を鷲掴みッ!!!!!




「ひぃっ!!千草ァっ!!!」
「……あんた今、あたしを使って厭らしい想像してたわね」
「出来心だったんだぁっ!!ゆ、許し……」
「許すわけないでしょうっ!!!行くわよ弘樹っ!!!」
その後、新井田がどうなったかは言うまでもない。
その悲鳴を聞きつけ七原と三村が駆けつけてきた。
そして一言こういったという。
「ブラッディークリスマスだな……」




「……三村も豊も相馬もダメ……そうだ杉村、おまえがサンタやってくれよ」
「え?オレが?……オレはサンタってガラじゃないからな……」
「何だかわからないけどやってあげないさいよ弘樹」
「ああわかった」
杉村にとって貴子は絶対的存在だった……。
「じゃあさ。早速サンタの訓練しよう。本物以上にサンタらしくしないと」
七原はとりあえず杉村にサンタのコスプレをさせた。
「じゃあオレたちが見てるから、サンタの実演やってくれ」
「よしわかった……」
杉村は神経を集中させた。そして……(サンタの服装に袋を担いだスタイルで)叫んだ。




「せいやぁ!!!!!」




「「え?」」
その時点で七原と三村の目は点になっていた……。
「とうっ!!はぁっ!!あたぁっっ!!!」
そう……杉村はサンタスタイルで拳法の技をひたすら繰り返しているだけなのだ……。
「ラストだ。いくぞ、せいやぁ!!!」
そして最後に校庭の木目掛けて正拳突き……木はメキメキと音を立てて真っ二つに折れてしまった。
「貴子……オレ、おまえに約束したように強い男になれたか?」
「まだまだよ。でも、あんたいい男になったわよ」
「おまえこそ世界一カッコイイ女だ……アレ?七原たちどこに行ったんだ?」
七原と三村はすでにこの場から消えていた……。
























二人は静かに考え事が出来る場所。屋上に向っていた。
「なあ三村、オレ考えたんだよ。サンタってどんな家でも簡単に不法侵入できないとダメなんじゃないか?」
「そうは言ってもなぁ……不法侵入が得意な奴なんてオレたちの知り合いには……」
ガチャ……屋上に通じるドアを開けた。
「「……いた」」
二人の目の前には屋上でたむろしてる桐山ファミリーの姿があった。
何をやっても完璧な桐山に、コソコソした行為は天下一品の月岡。
そして泥棒の経験豊かな沼井、笹川、黒長。
「まさにサンタになる為に生まれてきたような奴等じゃないか」
「……三村、おまえ自分の台詞に疑問はないか?」
とりあえず二人はわけを話してみた。
「12歳の女の子~?おいオレのテリトリーは13歳以上だぜ」
笹川、誰がおまえの女のタイプを聞いた?
「……オレは協力してやりてぇのは山々だけど、オレみたいなワルには似合わないんだよ」
沼井の意見は最もだった。
「三村くんがデートしてくれるならいつでもOKよ。うんっ!」
月岡は……三村の一存で却下された。
「なあサンタって金持ちなんだろ?」
ここで普段は全く目立たない黒長が意見を言った。
「だって大勢の子供にプレゼント無料配布するくらいだしよ」
その瞬間、全員の目線が桐山に集中した。
「……確かにサンタは金持ちだよな」
「ああ……それも超がつく」
問題は、この気まぐれ男がサンタをやってくれるかどうかだ。
「いいんじゃないか」
「「え?」」
「オレはやってみてもいいと思っている。
それも面白いんじゃないか?」
「「ほ、本当か?」」
とりあえずテストして見ることにした。

























「オレの家だ。妹がいる。ターゲットと同年齢の女の子だからテストにはうってつけだろう。
その子に気付かれないようにプレゼントを置いて来るんだ。できるか?」
「ああ」
桐山はまずペンチを取り出した。それでセキュリーティーの配線を全て切断。
「……さすがは桐山。ぬかりないぜ」
感心する三村を余所に七原は「何かが違う」と不安になっていた。
さらに桐山は道具を取り出すと窓ガラスに円の形にキズをつけた。
そして、その部分を綺麗に割り、そこから手を入れて窓サッシの鍵を外す。
「……一分の狂いも無い」
感心する三村を余所に七原は「……これって泥棒じゃないのか?」と不安になっていた。
そして桐山は前方に注意しながら郁美の部屋の前に到着。
部屋の中から物音が聞こえる。どうやら郁美は起きているようだ。
(当然だ。夜じゃないのだから)
桐山はそっとドアノブを回す。
そしてっ!!郁美が振り向く前に一気に距離を縮めるとっ!!
ドンっ!!郁美の首に手刀!!
郁美はそのまま気を失ってしまった。
そして桐山は気を失った郁美のそばにプレゼントを配置。
「任務完了だ」
「……完璧だ」
感心する三村を余所に七原は「……サンタじゃない」と確信していた。




「ああもう何やってるのよ。みてられないわ」
「つ、月岡!!どうしてここに!?」
「あら、アタシにとってこの家は第二の我家よ、いて悪い?」
「悪いに決まってんだろ!!」
「まあ落ち着きなさいよ。いい?二人とも大事なこと忘れてない?」
「「大事なこと」」
「よく考えなさいよ。サンタって白髪のおじいちゃんでしょ?
どこの世界に、こんなに若くてハンサムで黒髪オールバックのサンタがいるのよ」
「「た、確かに……」」
「あたしたちのクラスで若くない男といったら一人しかいないわ」
「よし、わかった。行くぞ七原っ!!」
「ああ!!」
走り去る二人を見て月岡はさらに言った。
「そうそう桐山くん、あなたにもやってもらいたいことがあるのよ」
























「……で?なんでオレのところに来るんだ?」
「何言ってんだ。うちのクラスで最年長だろう、おまえは!!」
「頼むよ川田。おまえの中学生離れした風貌が人助けになるんだ」
こうしてなぜかサンタ役は川田に決定してしまった。
























「……いいなぁ皆はサンタさん来て……私のサンタはパパだから……。
だから今年は来てくれないんだ。それに来年も……」
その時……ガラッと窓が開いた。
「メリークルシミマス……じゃないクリスマスだ、お嬢ちゃん」
「え?」
「ほーらイイコにはプレゼントだ」
「さ、サンタさん?」
「まあな」
「うわぁ!!本物のサンタさんだっ!!」
美恵は大喜び。川田の中学生離れした容姿が幸いして偽者とは全くバレていない。
川田は複雑だったが、これも人助け。
プレゼントを受け取り大喜びの美恵を見て川田は思い出していた。




そういえばオレも……昔は親父やおふくろと楽しいクリスマスやっていたもんだ……。




「ねえサンタさん」
「ん?何だ?」
「雪はいつ降るの?」
「はぁ?」
「ホワイトクリスマスみたいの。パパやママと一緒に見た」
「……えーと、それはだな」
川田は頭をかき始めた。そんなこと神様でもない限り無理だ……。
だが……。
「うわぁ!!綺麗!!」
「え?」
川田は後ろを振り向いた。
「……雪」
そんな今夜は晴れだと天気予報で言ってたはず……。
「ありがとうサンタさん」
まぁいいか……。




「どうやら間に合ったようね」
慈恵館の外では七原や三村は勿論、桐山と月岡までいた。
「ありがとう桐山くん」
「たいしたことじゃない」
ホワイトクリスマス……その正体は何と桐山家が経営するスキー場で使っていた人工雪製造機だったのだ。
「桐山が金持ちでよかったな七原」
「ああ」





メリークリスマス
あなたはどんなクリスマスを過ごしますか?




~END~




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