コツコツコツっ……怪しい足音
「誰っ?」
振り向くが誰もいない
でも、気のせいなどではない
確かに誰かがつけていた

それも1人や2人じゃない……


自由研究


「つけられてる?」
「うん」
「気のせいじゃないの?」
「そんな事ない。それも毎日なの」
楽しい夏休みも残りわずか。本日は久々の登校日。
本当なら、クラスメイトたちと嬉しい再会なのだが、美恵は素直に喜べなかった。
なぜなら、夏休みに入ってから、常に視線を感じるようになったのだ。
最初は、気のせいと思ったが、それが半月以上も続くとなると……。


もしかしてストーカー?私、狙われてるの?


まして、美恵の家族は仕事で海外にいる。つまり、美恵はマンションに一人暮らしなのだ。女子中学生の一人暮らしほど、危険なものはない。




「どうしよう貴子……私、怖い」
「じゃあ、しばらく、あたしの家に泊まらない?歓迎するわよ」
その途端、一気にクラス中が慌しくなった。
「ちょっと、抜け駆けよ!美恵、あたしのマンションに来なさいよ。新しいパトロンに貢がせた高級マンションなのよ」
美恵ちゃん、アタシの家に来ない?美恵ちゃんの為に、ゲイバーで歓迎パーティー開くから」
美恵さん、よかったらオレのところに来てくれないかな?慈恵館はアットホーム的で、きっと楽しめるよ」
「七原、ふざけるなよ。美恵、オレの家にこいよ。親父は不倫旅行、お袋は婦人会旅行に出かけてるから、気兼ねする必要なんてないんだぜ」
「三村、おまえこそ下心が見え見えだぞ!!恥ずかしくないのか!!?」
「なんだと杉村!!おまえこそ、千草のお隣を利用して、両手に花やろうと思ってるんだろ!?」


「みんな、やめてッ!!!!!」


クラス中が、美恵を見詰めた。
「心配してくれるのは嬉しいけど、ケンカなんてしないで」
その真後ろの席――川田は思った。
(相変わらず鈍いお嬢さんだな。まあ、そこが可愛いんだけど。ストーカーの正体知ったら、どうなるんだろうな?)
そして、メモ帳片手に速記。
天瀬美恵、少々、いや…かなり鈍感……しかし、裏を返せば癒し系の証拠云々……)
なにやら、怪しい内容……いや、川田だけでは無かった。
貴子、光子、月岡、三村、七原、杉村、沼井、新井田……ets、も細かくメモっている。
何してるんだ?









それは終業式の後だった。
「ねえ、美恵。夏休みの自由研究の課題決めた?」
「うん、心理学」
「心理学?」
「あっ、たいしたことじゃないの。クラスの皆の環境とか性格とか人間関係をまとめてレポート書くだけ」
それを聞いた途端、クラスの、ある特定の生徒の自由研究の課題が決定した。
それは心理学、と云ってもクラスメイト全員が対象ではない、ある一人の人物だけが対象。
題して美恵の全てを調べ尽くしてやるぜ!!○秘レポート!!』
(そのまんまっ!!って、いうか、ただの個人的趣味だろ!?)









「シンジいい加減にしなよ。ほとんど変態だよ」
「うるさいぞ豊。オレは夏休みの宿題をやってるだけだ」
PCと睨めっこ状態の三村。恐ろしいことに美恵のPCに不正アクセスして個人情報を手に入れているのだ。
「今日の日記は……何々、すごく好みの服を見つけたが予算が合わない――か。
よし、今度プレゼントしてやろう。とりあえず、本日の愛のメッセージを送っておくか」
そして最後に『enter』キーを押した。その頃、美恵は……。


「……また、きた」
PCの画面に突然、『I LOVE YOU』の文字がデカデカと……(汗)
「一体、誰なのよ!!毎日ウイルス送りつけてくるのは!!!」
さらに、しばらくすると『I LOVE YOU』の文字が消え『君を、ずっと見詰めてる』……。
「怖い……絶対に、ストーカーよ……」
ちなみに三村には全ッッ然、悪気は無かった。







草木も眠る丑三つ時……なにやらゴミ捨て場にて、ガサガサ……
「玉ねぎ、じゃがいも……それに、にんじんの皮、か。夕飯はカレーだな。
昨日は、十中八九スパゲティだし。最近、洋食が多いな、お嬢さんは」
「でも、川田が一緒で良かったよ。こんなもので美恵さんの私生活を調べようなんて、オレには考え付かないもんな。尊敬するよ」
「おだてるなよ、七原。オレは結構、照れ屋なんだぜ。それにしても日本人には和食が一番なのに。今度オレがつくってやるか」
川田と七原は生ゴミから美恵の食事を割り出し、せっせとレポートつくりに励んでいた。


――次の日――
「また、あらされてる……」
おまけに郵便受けに『四季の和食』という料理本が入っていた。
「怖い……絶対に、ストーカーよ……」
ちなみに川田と七原には全ッッ然、悪気は無かった。







「えーと、バスト・ウエスト・ヒップのサイズは……着やせするタイプなんだな」
新井田和志。天体望遠鏡で本日も美恵を遠方より観察。恐ろしいことにサイズはぴったり当たっていた。
なぜなら、新井田は自慢じゃないが人間スカウター(汗)。
一目で女の身体のサイズを割り出せる男。
って、いうか火星大接近というのに、のぞきにしか利用されない天体望遠鏡って、一体……。


「何よ、これ!!」
送り主不明の贈り物。開けてみると高級下着1セット(汗)
メッセージカードには『絶対に合うはずだぜ。今度オレが脱がせてやるから、待ってろよ』などという、ふざけた言葉が(ひぃぃぃーー!!)
「怖い……絶対に、ストーカーよ……」
ちなみに新井田には全ッッ然、悪気は無かった。







「お嬢さん、オレたちと付き合えよ」
「困ります」
と、そこへタイミングよく
「てめえら、いい加減にしろよ!!」
沼井、笹川、黒長が登場。ナンパ男は退散した。
「大丈夫か?天瀬」
「ありがとう。でも、どうして最近からまれるんだろう?
そういえば、必ず沼井くんたちが助けてくれるけど」
「……ぐ、偶然だよ!!」


「なあ、ヅキ。ちょっと、やりすぎじゃないのか?」
「何言ってんのよ。人間って、怖い目に合った時、本当の自分をさらけだすっていうじゃない。
これも美恵ちゃんの心理を細かく研究するための必要悪なのよ。
明日は、天茶中のバカにからんでもらう予定だから、しっかり演技するのよ」


100%の確率で桐山ファミリーが登場して助けてくれるから今のところは大丈夫だけど……。
いくらなんでも二日に一回は男にからまれるなんて尋常じゃない。
「怖い……絶対に、ストーカーよ……」
ちなみに月岡には全ッッ然、悪気は無かった。







「今日は楽しかったわ。じゃあ、また今度遊びに来るわね」
男どもと違い、堂々と美恵の家に入り込める貴子と光子。


――その夜――
「髪の長さ、それに色……このシャンプー、あまりあってないようだな……」
「どう、弘樹完成した?」
「いや、まだだ」
「……たく、遅すぎるのよ。さっさと標本つくりなさいよ。あたしはレポート完成間近なのよ」
「すまない貴子」


――同時刻――
「はい、今日の戦利品よ」
「すごいよ、相馬さん。後は、天瀬さんの寝顔写真があれば完璧だよ」
「ふふっ。まかせて頂戴」
貴子は杉村と、光子は滝口と、それぞれ共同で自由研究を行っていた。


「また、なくなってる……」
最近、やたらと私物が無くなる。この間なんか、アルバムから写真が数枚抜き取られていた。
ちなみに、物が無くなるのは、決って貴子や光子が遊び来た時なのだが、美恵は、全く気付いてなかった。
「怖い……絶対に、ストーカーよ……」
ちなみに貴子と光子には全ッッ然、悪気は無かった。




そして夏休みは終了した。




「な、なんなんだ。これは……」
職員室で、生徒の宿題をチェックしていた林田は目眩がしそうになった。そして……。
『三村!!川田!!七原!!相馬!!杉村!!千草!!滝口!!新井田!!月岡!!沼井!!笹川!!黒長!!瀬戸!!
今すぐ職員室に来なさいっ!!!!!』




「なんなんだ、これはっ!!!!!」
「「「「「「「「「「「「「何って、自由研究」」」」」」」」」」」」」
「きみたちがやったことは犯罪だぞ!!!………まったく、桐山くんの自由研究とは雲泥の差だ。桐山くんを見習って、一週間以内に、まともな内容のレポートを出しなさい」
そう言って、林田は桐山が提出した古代遺跡に関するレポートを取り出した。
「見なさい。とても中学生が書いたものとは思えないだろう?」
まるで大学生の論文。しかし……。
「エジプトのピラミッド、ギリシャのパルテノン神殿、カンボジアのアンコールワット……ets。
ご丁寧に、写真付きかよ。桐山の奴、自由研究の為に世界旅行してたのか。んっ?」
古代遺跡をバックに撮られた写真……桐山がいるのは当然だが。
全員、深呼吸をして、再度写真を見た。どの写真にも桐山の隣に一人の少女が……。
帽子を被り、サングラスをかけてはいるが、見間違えるはずはない。


三村「おい……この女、どう見ても」
七原「な、なんで桐山の世界旅行に彼女が?」
川田「しかも、新婚みたいに寄り添って」
貴子「そういえば、夏休み中、二週間くらい美恵がいなかった事があったわよね」
光子「もしかしなくても……これは婚前旅行?」




………シーン………




と、そこへタイミングよく職員室のドアが開いた。
「おや、桐山くん。どうしたんですか?」
三村達はいっせいに疑惑に満ちた目で振り返った。
「昨日、引越ししたんだ。だから転居届を提出しに来た」
「そうですか。えーと、新住所は城岩マンション5Fの66号室」




………再びシーン……




「「「「「「「「「「「「「城岩マンション5Fの66号室だぁぁぁっ!!!!!」」」」」」」」」」」」」
「話は、それだけだ」
そう言うと、桐山は、さっさと帰宅の途についた。
「さてと、話の続きだが、君たちも反省して……」
「「「「「「「「「「「「「それどころじゃないっ!!!!!」」」」」」」」」」」」」
全員、血相を変えて、桐山の後を追った。
後には、取り残された林田が呆然と天井を見ていた。




「「「「「「「「「「「「「ちょっと、待ったぁぁーーー!!!!!」」」」」」」」」」」」」
「オレに用なのか?」
三村「どういうことだ!!なんで、おまえが美恵の部屋に住むんだよ!!」
七原「中学生が同棲なんてしていいと思ってるのか?」
杉村「その通りだ!!不純すぎるぞ!!!」
貴子「第一、美恵と、どういう関係なのよ!!」
光子「美恵を、どうしようって言うのよ!!」
沼井「ボスっ!!どういうことか説明してくれよ!!」
月岡「おまけに、美恵ちゃんと世界旅行なんかしてっ!!!」
川田「さあ桐山、言い訳くらいは聞いてやるぞ!!!」




「聞いてくれるかな?」
興奮状態の三村達を前に、桐山は全く動じず語り始めた。
美恵は最近怯えているんだ。複数のストーカーにつけねらわれているらしい。
オレも心配だ。だから、一緒に住むことにした。理解してくれるかな?」

と、そこへ

「和雄ーー!!」
美恵」
「待った?早く帰ろう。今日の御飯は何がいい?」
美恵が作ったものなら、何でもいい」
「ちょっと待ちなさいよっ!!」
「貴子、どうしたの。怖い顔して」
「どうしたのじゃないわよ。同居するなんて、あんたたち一体」
「あっ、それはね」
美恵は頬を染めながら言った。
「和雄に、ストーカーの相談してもらってるうちに、その……早い話が、私たち付き合うことになったの」




「「「「「「「「「「「「「…………ッッ!!」」」」」」」」」」」」」




「そういうことだから///」
恥ずかしそうに両手で顔を覆う美恵。
そして、桐山は顔面蒼白になっている三村達に近づくと、美恵に聞こえないように、こう囁いた。




「二度と、美恵につきまとうな」
「「「「「「「「「「「「「ッッッ!!!!!」」」」」」」」」」」」」





美恵、帰ろうか」
「そうだね」




三村「あ、あいつ……全部知ってたのか」
七原「何なんだ。あいつは何なんだ」
貴子「つまり、あたしたちは利用されたのね」
杉村「オレたちって、一体……」
光子「あたしの美恵を独り占めするなんて」
川田「ようするに、オレたちは墓穴を掘ったという事か……」




こうして美恵は桐山と公認のカップルになり、ストーカーに悩まされることもなくなった。
メデタシメデタシ