私、天瀬美恵19歳。現在大学二年生。
将来教師を目指して猛勉強中。
そして今日から教育実習!!
そう、初めて生の生徒たちと触れ合うの。
城岩中学三年B組。
きっと、まだあどけなさの残る可愛い生徒たちに違いないわ。
頑張らなくっちゃ!!




ああ、青春の学び舎




「私が担任の林田です。どうかよろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
よかった、優しそうな先生で。きっと生徒も素直で可愛い子供たちに違いないわ。
あ、でも子供といっても私とは4歳しか違わないんだもの。
教師と生徒というよりお友達みたいな関係になるかも。
「じゃあ、教室に案内しますので、それまでこの部屋で待っていてください。



「‥‥ふぅ」
あれ?先客がいる。
「あの、あなたは?」
「‥‥今日から、この学校にくることになった川田章吾っていうんだよ。お嬢さん」
「あなたも?良かった一人で心細かったの、それにしても‥‥どうして学ラン着てるんですか?」
「おいおい冗談のつもりか、お嬢さん。オレは学生だ、学ラン着て何がおかしい?」
「ええっ!!他校から転勤してきた学年主任の先生じゃないんですかっ!!!?」

これが私が最初に会った生徒。まさか年下だったなんて‥‥(汗)
私やっていけるのかしら?



















「‥‥失敗したわ。外見で生徒を判断するなんて教師失格よ。
川田くん傷ついただろうなぁ‥‥」

とにかく林田の案内で美恵と川田は生徒たちに紹介された。

(‥‥それにしても最近の中学生って発育いいのね。
ま、まさか‥‥不純異性交遊とか、妊娠騒ぎとか‥‥ないわよね?)

放課後、美恵は一人屋上で悩んでいた。
「ちょっと、どういうことよ!!」
「どうもこうもないだろ。遊びでもかまわないから付き合ってくれって言ったのはどこの誰だよ?」


え?今、すごいセリフ聞こえなかった?


「最低っ!!」
パンッというすごい音。そして泣きながら走り去っていく女生徒。
「あーあ、またかよ」
「シンジぃ……いい加減にしなよ。叔父さんが草葉の陰で泣いてるよ」
「……そんなこといっても、言い寄ってきたのはあっち……ん?」
ヤバイ!目が合ってしまった。
「あれ?美恵ちゃんじゃないか」
ちょっと、ちょっと、いくら教育実習生だからって仮にも教師に『ちゃん』はないでしょ。
とにかく教師として叱っておかなきゃ。
「三村くん、先生見てたわよ。ダメじゃない女の子には優しくしないと」
「何言ってんだよ美恵ちゃん。そういうお説教ならオレより相応しいやつがいるんだぜ」
「え?」
「ほら、見てみろよ」
三村が指差した先には…………。




「このクズっ!!最低男っ!!!」
「よくも貴子をっ!!!新井田ぁっ!!おまえの血は何色だっ!!!」
「ひ、ひぃーー!!勘弁してくれぇぇーー!!!
で、出来心だったんだよぉぉーー!!!!!」
なんと一人の男子生徒がリンチされているではないか!!
「ま、待ちなさい二人とも!!!!!」
美恵は三村へのお説教も忘れて走り出していた。
「あ……せ、先生ぃぃーー!!助けてくれぇーー!!!」
「え?」
何と、その男子生徒はこともあろうに美恵に抱きついてきた。
「な、何するのよっ!!!」
「いいじゃないか!!生徒との抱擁なんて金八並に美味しいだろっ!!?
こんなに健気な生徒が助けも止めているんだから抱きしめてキスの一つもしてくれよぉ!!
オレ悪くないと思うぜぇぇーー!!!!!」
「あんた、まだ懲りてないのね!!」
「ひぃぃーー千草勘弁してくれぇぇーー!!!!!」
「ま、まって千草さん。どういうことなの?」
「このクサレ男、こともあろうに放課後、誰も居ない教室であたしの縦笛吹こうとしたのよ!!」
……新井田。おまえは小学生か?
「もっとも、こんなこともあろうかと弘樹の縦笛と取り替えておいたけどね」
「ま、待って千草さん。気持ちはわかるけど校内暴力は……」




「だから倉元は遊びだって言ってるでしょ。
あんたの体だけが目当てなのよ」




え?今すごい台詞が聞こえてこなかった?
美恵は新井田のことも忘れ声のほうに振り向いた。




「そんな……洋ちゃんは……洋ちゃんは」
「そうそう光子の言うとおりよ。あんな奴と別れて戻っておいでよ。
ほらぁ、あたしの客まわしてやるからさぁ」




客……?客って一体……?




「ねえ和くん。今度の日曜日映画見に行こう」
「ああ、わかってるよ」
ショックを受けている美恵の目にいかにも清純そうなカップルが目に入ってきた。
(良かった。やっぱりまともな子もいるんだわ)
「それでね和くん……お母さん仕事で夜居ないの」
「本当か?久しぶりだな、嬉しいよ。避妊具はオレが用意するから」
「!!!!!!!!!!」←美恵の心の叫び。
そ、そんなっ!!あんな慎ましそうな二人がっ!!
この学校って、不純異性交遊の温床!!?
それとも今の中学生って、みんなああなの!!?
美恵はあまりの衝撃に教師としての自信を無くし掛けていた……。



















――二日目――

「先生、先生。見てあたしが作ったクッキー」
「すごく上手よ中川さん」
「嬉しいクッキーは得意なの。よく弟に作っていたから」
「先生、あたしのクッキーも食べてみて。
あたしお菓子作りはあんまり上手じゃないんだけど」
「そんなことないわ。内海さんはお料理上手なのね」
本日は調理実習。クラスの女子主流派メンバーたちが美恵に群がっている。
昨日の衝撃が嘘のような可愛い生徒達。
(良かった。やっぱり、昨日の子たちは特殊すぎたのよ。
こんなにイイコばかりで本当に良かった)
美恵は心の底からホッとしていた。
「「「「「ねえ先生。これなら男の子にも喜んでもらえる?」」」」」
「ええ、クラスの男子達にあげるの?」
「「「「「違うわ。ターゲットは一人だけなの……一人だけ」」」」」
「え?」
なんだろう?何か黒いオーラが見えたような……(汗)
典子「仕上げはこれよ、これ」
幸枝「典子……これが例のブツなのね?」
雪子「これが月岡くんが発明したっていう淫乱剤……ゴクっ」
友美子「口にした者は一気に欲情に走るというアレね?」
恵「コレをクッキーに振りかけて七原くんに上げれば……」


「「「「「彼はたちどころに理性を忘れるのね……クックック」」」」」


……神様。冗談ならやめて下さい。



















――三日目――

「ひぃぃーー、ごめんなさいっ、ごめんなさいっっ!!」
「うざいんだよ、このデクの棒!!!」
「あ、赤松くんっ!!こらぁ!!笹川くん止めなさい!!」
ああ覚悟はしてたけど、いじめの現場に出くわすなんて……。
でも教師として見て見ぬフリはできないわ。
「何だよ。止めて欲しけりゃ先生のパンツくれよ」
「え?」
何?……今なんて言ったの?
「竜平ーー!!!!!てめぇなんて事を言うんだぁぁーー!!!!!
おまえがバカやったらボスの名誉に関わるんだぞぉぉーー!!!」
沼井くん!!やっぱり本当はイイ子だったのね、先生嬉しい。
「だからスカートめくりくらいで勘弁してやれ」
そ、そんなぁぁ!!!!!
「ちょっと、ちょっと酷いわよ、あんたたちぃ」
月岡くん……先生を助けてくれるの?
「先生ももっとちゃんししなきゃ教師になんてなれないわよ」
「……はい」
あーあ、生徒に説教されちゃった……情けない。
「度胸をつける為に修行と思ってうちの店来なさいよ。安くしておくわよ」
「え?」



















――四日目――

ジャァァーーンッッ!!ジャカジャカッ!!
な、何よ。この騒音はッ!!?
え、七原くん?あんなイイコが……そうか確か七原くん、ロック好きだったわよね。


「……フン。下品なロックンロール奴僕が」


え?何今の……まさか織田くん?あんな大人しい子が。
きっと私の聞き間違いよね。


「じゃあオレの新曲『スリー・オブ・ジャスティス』!!」
七原くん、すごく輝いている。本当に音楽好きなのね。
先生、あなたを応援してあげるわ。
立派なアーティストになってね。
おぉ~けぃーーーぃ!!今度のぉーってじゅぜぇ~~!!!
「え?」
何?今のは……ジャイアン現る?
ーーに正義はぁ~~あーよぉぉーー!!!」
「「「「「キャーー七原くーーん!!!!!」」」」」
気付けば七原ガールズしか乗ってない……って、いうか他の生徒耳栓してる……。


ごめんね七原くん前言撤回……。
教師がこんなこと思うなんて最低だけど、先生あなたの夢応援できない……。



















――五日目――

「うわぁぁぁーーーん!!!!!」
「み、南さん、どうしたのッ!!!」
「先生ぇーー!!!!!」
「どうしたの?何があったの?」
突然授業中に泣き出すなんて……美恵は焦った。
「順矢が……順矢が……あたしを裏切ったのッッ!!!」
「じゅ、順矢?」
このクラスの子じゃない。どこのクラスの生徒かしら?
「あ、あたし……順矢に尽くしてきたのに……。
それなのに……他の女と……」
「何ですって!!」
許せない、こんなイイコを!!
「どこのクラスの子なの?!先生が叱ってあげるわ!!」
「こいつよ!!」
南が机の中から差し出したもの……それは月刊芸能のトップページ。


『スクープ!!剣崎順矢熱愛発覚!!何と三年前から同棲中!!』


「…………」
「あ、あたし……信じていたのに……」
「あ、あの……南さん」
「佳織!!なんて情けないのっ!!」
と、別の生徒が乱入してきた。
「あなたはそれでも光の戦士なの!!?所詮、平民ねッ!!!!!」


い、稲田さん……普通の人にはわからない会話はしないで……。



















――六日目――

教育実習は一週間。何か自信無くすことばかりだったなぁ……。
美恵は生徒名簿を見ながらそう思った。
明日は最終日なのに……私、全然あの子達に教師と思われてなかった。
「……そういえば、まだ会ってない子がいたわね」
生徒名簿男子六番の……。
「桐山くん……どうしてずっと休んでいるのかしら?」
もしかして登校拒否?
教育実習生に過ぎない私だけどほかっておけないわ。
美恵は誰にも内緒で桐山家に出向いていった。




「……桐山くんの家どこだろう?ずっと塀が続いてて……」
そこに運よく警官が歩いているのが目に入った。
「あ、おまわりさん、ちょっといいですか?桐山家を探しているんですが……」
「それなら、あんたの目の前だよ」
「目の前って……もう何百メートルも塀が続いているんですけど」
「だから、それが桐山邸。何しろ五千坪だからね」
「……ご、五千……坪?」
知らなかった。桐山くん、お坊ちゃんなんだ。
きっと大事に育てられすぎて病弱で大人しい子になってしまったのね。
だから学校にも来ないんだわ。
なんとかしてあげないと……。
「……あら?何なの、あの子達」
やっと門の入り口まで来た美恵の目に映ったのはいかにもガラの悪そうな連中……。




「いいか?何とかして奴の隙をつくんだ」
「なーに、所詮はお坊ちゃま」
「しかも、こっちは10人だぜ。多勢に無勢」
「とにかく奴が出てきたら、後ろから鉄パイプで殴って縛り付けて……」




あ、あいつら!!さてはか弱い桐山くんを身代金目当てで誘拐しようって魂胆ねッ!!
そうはさせないわッ!!!!!




「ちょっと、あなたたち!!!!!」
ガラの悪い連中が一斉に美恵を見た。
その目つきの悪さに美恵は一瞬ひるんだが、生徒の命がかかっているのだ、引き下がってなど居られない。
「桐山くんに手を出したら私が許さないわよっ!!」
「「「「「「「「「「なんだとぉッ!!」」」」」」」」」」
きゃぁーー!!いっせいに向ってくるぅーー!!!!
や、やっぱり怖いッ!!誰か助けてーー!!!!!
その時だった。
「静かにしてくれないか?」
と、それこそ静かな声がしたのは。
振り向いた先には恐ろしいほどハンサムな少年が立っていた。
「おまえは誰だ?」
「だ、誰って……私は桐山くんに……この家の息子さんに会いに来たのよ」
「そうか」
その少年が姿を現した途端、ガラの悪い連中は一瞬ひるんだ。
しかし「やっちまえ!」とばかりに全員一斉にかかってきた。
その後の説明はいらないだろう。
少年はあっという間に全員ぶっとばしてしまったのだ。
その強さに圧倒された美恵だったが、我に返って叫んだ。




「なんて悪い子たちなの!!うんと叱ってやらないと!!」
「叱る?おまえは、こいつらに思い知らせてやりたいのかな?」
「思い知らせる……ちょっと言い方悪いけど……そうね、思いっきりガツーンとやらないと、こういう子達は反省しないわ」
「そうかわかった」
その少年は懐から銃を取り出し、連中の中の一人に向ってトリガーを引いた。
「……な!だ、だめよっ!!」




ズギューーーンッ!!!!!




「……なぜ邪魔をする」
少年は表情こそ変えなかったが自分の腕にしがみつき弾道を変えた(結果的に銃弾は相手の顔ギリギリにすれ、壁にのめり込んでいた)美恵に対し、不満そうなのか少し声を低くして言った。
「何言ってるのッ!!?」
どうでもいいことだが(いや、どうでもよくないが)殺されかけた10人は顔面蒼白になり全力疾走で逃げて行った。
「もう少しで殺すところだったじゃない」
「思い知らせてやりたい。おまえは、そう言った」
「第一、あなたみたいな少年がどうして銃なんて持ってるのよ!!」
「父が護身用に渡してきたんだ」
「ひとを殺すなんていけないことなのよ!!」
「なぜだ?」
「なぜって……駄目なものは駄目なのよ!!」
「なぜだ?」
美恵は呆気にとられた。
「……とにかく私の言うことを信じて」
「そうか」




……桐山くんに会いに来たけど……もう駄目。
精神力使い切っちゃった……。
この変わった子のせいよ……。
一体、どういう教育受けたのかしら……。




美恵はトボトボと家路に着いた。
明日で教育実習終わりだけど……正直言って教師の自信なくしそう……。
それにしても……桐山くん、明日来てくれるといいな。



















――七日目――

「……何だかんだ言っても少し寂しいな」
とにかく最後なんだから気合入れて……。
「おはよう、みんな!!」
元気よく教室のドアを開けた。
そこには誰もいなかった――。



















「……何よ。いくらなんでも授業を集団でサボりだなんて……。
……教育実習の段階でこれじゃあ……私に教師なんて無理だよね……」
……もう教師なんてあきらめようかな。
美恵は一人屋上で落ち込んでいた。
「先生ーー!!!」
「そんなところにいたの。探したよ」
あれ?あれは金井さんに、松井さん。
「あなたたち……」
「ほら来て」
二人は美恵の腕を掴むと引っ張り出した。
「ど、どこに行くの?」
「いいから、いいから」



















「……これって」
そこは音楽室だった。ただし部屋中飾り付けされており、机の上にはお菓子やジュースが並んでいる。
「これはですね。お世話になった先生への送別会です」
真面目ぶった委員長・元渕がメガネのふちを摘みながら、事務的に喋った。
「先生にはお世話になったから。先生、頑張って素敵な教師になってね」
「……滝口くん」
「先生なら、きっとなれるわ」
「……北野さん」
「あたし、光輪教の神様に初めてお願いしたの。先生が立派な教師になりますようにって」
「……日下さん」
ポロポロといつの間にか涙が頬を伝わっていた。
「……ありがとう、みんな」
本当にありがとう――。




その後はとても楽しかった。
七原くんのギターの弾き語りでさえも。
みんな本当にイイコばかりだった。
今なら間違いなくそう思える。




「ありがとう、みんな。……先生、すごく嬉しい。
桐山くんに会えなかったことだけが気がかりだけど」
「あ、そうそう、そのボスだけど」
沼井くんが立ち上がっていた。
「ボスにお願いしたんだ。先生へのお別れ記念にでっかい花火あげたくてさぁ」
花火?
「そしたらボス。二つ返事でOKしてくれたんだよ」
桐山くんって大金持ちっていうのは知ってたけど想像以上ね。
その時だった。可愛い着メロが鳴り響いたのは。
「もしもし、アタシよ。あら桐山くん?」
月岡が美恵に携帯を差し出してきた。
「先生、桐山くんよ」
「え?桐山くん?」
美恵は急いで携帯を手にした。




「もしもし桐山くん」
『ああ、そうだ』
え?この声……聞き覚えが……。
『コインを出してくれないか?』
「コイン?コインなんてどうするの?」
『いいから出してくれ』
わけもわからず美恵は取り合えず財布から500円玉を取り出した。
『投げてくれないか?』
投げた。当然ながら床に落ちた。
『表か裏か言ってくれないか』
「裏だけど。どうして?」
『充たちが、おまえの為に送別会を派手にしてくれと頼んできたんだ。
オレは今上空にいる。学校の真上だ』
「ま、真上!!?」
美恵は慌てて窓に駆け寄り、そして窓を開けた。
生徒達も美恵のただならぬ様子に何かを感じたのか一斉に窓際に集まった。
「み、みろッ!!!あれは……軍用機!!!」
上空に巨大軍用飛行機が!!!!!!!




『オレは選ぶだけだ』
「え?選ぶ……って?」
『表が出たら打ち上げ花火』
表が出たら……打ち上げ……じゃあ裏は?
美恵はゴクリと唾を飲み込んだ……。
「……う、裏は?」




















『花火100発、投下する。受け取ってくれ』



















・・・・・・



















その数秒後……城岩中学は派手な爆発に包まれた――。
――と、後世の歴史家は語っている。




「若さま。全弾投下終了しました」
「ああ、用事は済ませた。帰るぞ」
桐山家の軍用飛行機は何事もなかったかのように飛び去っていった。




~END~




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